販売の日と、販売代金受取りの日を分けて考えるのは、経営管理の基本

販売代金受取りの日は、売上の日ではない!

初めて独立や起業をしてとまどうことの一つに、会計ソフトに売上を入力するときに「売上日付をどうすべきか?」というのがあると思います。よくあるのは「代金を受け取った日を売上日とする」ことではないでしょうか。

前職が営業で「月末締・翌月末払い」「お客様への今月の納品分の合計代金は、来月末に入金される」ことなどを体感してきた人ならば、迷うことはないのでしょうが、多くの場合、消費者としてお店で物を買うときにお金を払うことを強く念頭におきがちなので「お金を支払った日が買った日」としがちで、その裏返しで「お金を受け取った日が売上の日」としがちです。

しかし、企業経営の世界、言い換えれば会計や税金の世界では「お金を受け取った日が売上の日」とはしません。

現金商売の小売業のように「売上の日=お金を受け取った日」となる場合があっても、通常は「売上の日」と「お金(売上代金)を受け取る日」を分けて考えます。この分けて考えることが、資金繰りや、お客様など取引先との取引条件を管理するという「経営管理」の基本となります。

「販売代金受取の日=売上の日」となる場合

図1 売上の日=販売代金受取の日

ここでは、現金商売の小売業やその日のうちにサービスを受けられるサービス業をイメージしますが、そうであっても「販売」と「販売代金の受け取り」を分けてとらえます。

ここで「販売」とは、

  • 販売するものがモノ(商品、製品)であれば、モノをお客様に引き渡すこと。別の言い方では「納品すること」(厳密にはお客様が納品を容認していること、検収を完了していることでありますが、ここでは厳密なお話は割愛します)。
  • 販売するものがサービスであれば、お客様へのサービスの提供を完了すること(厳密にはお客様がサービスの提供の完了を容認していること)

を意味します。

「販売代金の受け取り」とは読んで字のごとくですが、引き渡したモノや提供したサービスの対価として現金を受け取ることです。

さて、図1では販売の日と販売代金受取の日が同じ日になるイメージ図ですが、例えば

  • スーパーマーケットで食料品を販売して代金を現金で受け取った
  • コーヒースタンドでコーヒーをテイクアウトで販売して代金を現金で受け取った
  • 床屋さんでカット・シャンプー・顔剃りの一連のサービスを全て終了して代金を現金で受け取った

など、よくある消費者との取引をイメージすれば理解しやすいでしょう。販売時点と販売代金の受け取り時点とが一致する取引です。

なお、クレジットカードでの代金決済がある場合は、次の項目(販売代金受け取りの日が、販売の日よりも後になる場合)を参照してください。

会計ソフトに売上を登録する際も、売上日は販売代金の受け取り日と同じ日(○年8月26日)になります。

なお、仕訳で表現すると「○年8月26日(借方)現金1,000/(貸方)売上1,000」のようになります。

販売代金受け取りの日が、販売の日よりも後になる場合

図2 販売代金の受け取り日が販売の日よりも後(いわゆる掛売り)の場合

企業対企業(BtoB)の取引でよくある「月末締翌月末払い」や、対消費者(BtoC)の取引でもクレジットカード払いによる代金受け取りや、請求書払いによる代金受け取りにおいて見られます。例えば

  • スーパーマーケットで食料品を販売し、クレジットカード決済により、代金は翌月に受け取る
  • 備品や事務用品を毎月3〜4回納品し、月初から集計し月末締として請求書を発行し、代金を翌月末までに振り込みで受け取る
  • 家屋の修繕工事が完了し、請求書を発行し代金を翌月末までに振り込みで受け取る(この場合は、工事完了前に、前金や中間金を受け取っていることもよくある)

などがあります。

ここで「販売」と「販売代金の受け取り」を分けてとらえることに、経営管理上の意義があります。

「販売」したということは「代金を請求できる」→「代金を請求する権利を有する」ことを意味します。

この「販売代金の請求権」を「売上債権」といいますが、「販売」したのに「販売代金をまだ受け取っていない」というのは、「支払い期限まで販売代金をお客様に貸している(融資している)」のと同じことになります。支払い期限が販売日の1ヶ月後であれば、1ヶ月の融資をしていることと同じことになります(クレジットカード決済の場合は、クレジットカード会社から支払われるので、クレジットカード会社に貸しているのと同じことになる)。

貸したお金(販売代金)は期日(支払い期限)までに返してもらう(支払ってもらう)必要があるということです。

売上債権は確実に入金してもらわなければならない。そうでなければ、利益が現金として実現せず、資金繰りに支障が出てしまいます。

一般的に、販売日から販売代金の受け取り日までの代金回収期間(これを「(受け取り)サイト」といいます)が短いほど資金繰りが楽になり、長いほど資金繰りが苦しくなります。取引先と交渉の余地があるならば、交渉してサイトの短縮を実現しましょう。

図2において、会計ソフトに入力する際は、

「○年8月26日(販売日が売上の日)(借方)売掛金(売上債権)1,000/(貸方)売上1,000」となります。

なお、代金を回収した日に

「○年9月26日(売上代金受け取りの日)(借方)現金預金1,000/(貸方)売掛金(売上債権)1,000」と会計ソフトに入力することになります。

代金を回収した○年9月26日ではなく、販売した○年8月26日が売上の日となることに注意しましょう。

代金を受け取っていなくても販売したのであれば売り上げになることに注意しましょう。特に、販売が当年度で代金の受け取りが翌年度になるような場合、代金の受け取りがまだであっても当年度の売り上げに含めるのを忘れないように。年度の利益や税金の額が違ってしまいます。

販売代金受け取りの日が、販売の日よりも前になる場合

図3 販売代金の受け取りが販売の日より前(いわゆる前受け)の場合

このようないわゆる「前受け」の取引には、例えば

  • 家賃収入(翌月分の家賃を前月末までに受け取る)
  • 塾や習い事などの授業料やスポーツクラブの会費(翌月分の代金を前月末までに受け取る)
  • 新築工事や修繕工事の前金
  • 製品の年間保証料やソフトウェアの年間保守料の一括前払いによる代金受け取り

などがあります。

販売よりも販売代金の受け取りが前なので、資金繰り上は有利といえます。しかし「販売する義務」を負うことになります。販売するまではお客様からお金を借りている(融資を受けている)のと同じです。とはいえ、販売を無事に済ませれば売り上げとして確定し返金の必要は無くなるので、とにかく販売を無事に済ませることに注力すべきということです。

図3において、会計ソフトに入力する際は

「○年7月26日(販売代金を前受けした日) (借方)現金預金1,000/(貸方)前受金1,000」となります。販売がまだなので、売上高とはならない(売上の日とはならない)ことに注意しましょう。

販売した日に

「○年8月1日(販売した日) (借方)前受金1,000/(貸方)売上1,000」と入力します。

なお、製品の保証料やソフトウェアの保守料のように、1年分を一括で前受けした場合には、月次決算では1ヶ月分の代金を前受金から売上に振替え(借方に前受金、貸方に売上)、まだ提供をしていない翌月以降の代金は前受金に残すこととなります。年度決算も同様です。

前受けしていても販売がまだであれば、売上として入力しないようにしましょう。利益と税金の額が違ってしまいます。

まとめ

ポイントをまとめると、次の7つです。

  • 販売と販売代金の受け取りを分けてとらえる
  • 販売代金の受け取り日は、売上の日ではない。販売の日(モノの引き渡し日、サービスの提供完了日)が売上の日である。
  • 売上の日が販売代金の受け取り日と同じになることはある。典型は現金商売の小売業
  • 販売代金の受け取り日が売上の日より後になる場合、代金回収を確実にすること
  • 販売代金の受け取り日が売上の日より前になる場合、販売を確実にできるように
  • 販売の日=売上の日が当期であるならば、販売代金の受け取り日が翌期であっても、当期の売上入力を忘れないこと
  • 販売代金の受け取り日が当期であっても、販売の日が翌期になるならば、当期の売上に含めず、翌期の売上とする

販売と販売代金の受け取りを分けてとらえて管理することは経営管理の基本として、しっかり意識しましょう。

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