公認会計士は、全体像を掴むのに長けています(連結会計を通して習得)

(11年前、新日本監査法人(現・新日本有限責任監査法人)に勤務していた際に、執筆に参加した「連結決算書作成の実務 第2版」)

はじめに

決算書は、一つの会社(法人)ごとに一つつくります。家計になぞらえば、お小遣い帳を、一人に一つ(一冊)作るのと同じ考え方です。

ところで、会社の中には、上場企業をはじめ中堅以上の規模の会社によくみられますが、一つの会社だけでビジネスを完結せず、子会社などをつくって、親子一体の企業グループとしてビジネスを展開している会社があります。

たとえば親会社が研究開発と製造を担当して、子会社を全国各地に立ち上げて販売を担当する。

また、よく見かけるホールディングスカンパニー、これが企業グループ全体の経営(経営企画、総務、人事、法務や資金調達など)を統括し、その下に子会社としての研究開発子会社、部品製造会社、完成品製造会社、販売会社があるといった感じです。

家計になぞらえば(労働適齢期でない子どもに仕事をさせるのはいけませんが)、親だけで家業をするのではなく、子どもにも仕事をしてもらい、家族全体でビジネスを遂行するような感じです。

このような企業グループのビジネスの成果を見る場合、親会社だけの決算書を見るだけでは、ビジネスの全体像が十分に把握できません。子会社が獲得した利益や純資産(資産と負債)も足し合わせてはじめて、グループ全体としての成果を理解できます。

さらに、親会社が、計画通りに販売成績をあげられず、なんとか計画を達成せんと(力関係を利用して)、子会社に”売りつける”ことが考えられます。親会社単独では確かに売上も利益も獲得できるのでしょうが、企業グループとしてみれば、単なるグループ内の移動にすぎず、売上も利益も獲得したことにはなりません。

親がお客様に販売しようとケーキを大量に作ったものの、思うように売れなかったからといって、売れ残りを子どもに買い取らせるのと同じことです。

子会社が獲得した利益や純資産(資産と負債)を足し合わせるだけではなく、親子会社間の取引を取り除く(相殺消去する)ことも必要になってきます。

連結会計は「世帯の家計簿」

企業グループを構成する全ての会社の決算書を合算し、親子会社間や、子会社間の取引を取り除いて(相殺消去して)、作成される企業グループの決算書を連結決算書といいます。

家計になぞらえれば、家族ひとりひとりの家計簿ではなく、家族全員の収支を合算して、親が子どもに与えたお小遣いや、夫から妻、妻から夫に渡した生活費のやりとりを取り除いてつくる「世帯の家計簿」です。

連結決算書のメリットは「企業グループ全体の経営の成果が理解できる」ことです。企業グループを構成する会社1社だけ見てもグループの全体像は分かりませんが、連結決算書を見れば全体像が理解できます。

ところで、子会社とは、親会社によって経営を支配されている会社のことを言います。親会社とは、子会社の経営を支配している会社のことです。親子会社関係とは経営を支配したりされたりする関係です。

上記は、厳密な子会社の定義ではありませんが、分かりやすいところでは、親会社が子会社の株式を全て持っているという関係性です(100%子会社)。株主総会の議決権は全て親会社が行使できるという点で、子会社の経営を支配しているといえます。

親会社は子会社が発行する株式全てを引き受け、その対価として子会社に資本金としてお金を払い込みます。そのお金を使って子会社は設備投資をしたり、仕入をしたり、経費に充てたりします。

親会社と子会社の決算書を単純に合算すると、親会社が持っている子会社株式と、子会社の資本金が残り、結果として、親会社の資本金+子会社の資本金となるのですが、子会社の資本金は元をたどれば、親会社が払い込んでいるので、単なるグループ内の移動に過ぎません。そこで、子会社の資本金と、これに対応する親会社の有する子会社株式を相殺消去します。

この相殺消去の会計処理を「連結仕訳」とか「連結相殺消去仕訳」と言ったりします。

単純合算から、連結仕訳、そして連結決算書(連結貸借対照表、連結損益計算書、連結株主資本等変動計算書(連結キャッシュ・フロー計算書も別途作成))の作成は、企業グループのそれぞれの会社の帳簿上ではできず、帳簿の外で別途連結精算表」というものをつくってすることとなります。

親会社を中心とした企業グループ全体の財務内容の理解を通して、全体像を理解することを得意とする

さて、公認会計士も上場企業や(上場していなくても)中堅企業以上の大きさの会社の監査に際しては、ほぼ、連結精算表の監査にあたることとなります(中堅以上の大きさの会社で子会社の無い会社の方が珍しいくらいです)。実務経験のない業界入りたてのフレッシュマン(公認会計士試験には合格している)も、連結精算表と格闘します。

前提として、親会社単独の決算書と各子会社の決算書の監査手続は(ほぼあるいは半ば)終了しており、単独の決算書の監査を通して、親子会社間取引、子会社間取引が把握されています(親子会社間取引や子会社間取引、その他連結決算書の作成に必要な情報を、各社ごとにまとめたレポートを連結パッケージと呼んだりします)。

連結精算表には、各会社の数字が合計され、相殺消去すべき会社間取引が集計され、結果として連結決算書の数値が計算されます。相殺消去すべきものが正確にもれなく集計されているか、合計すべきものは全て合計されているか、さらに、過去の連結精算表で消去された子会社の利益があればそれを当期の連結精算表に引き継いでいるか、チェックしていきます。

この、連結精算表と、連結決算書の検討をしながら、公認会計士は、企業グループの全体像を見ることに長けていくようになります。

親会社が株式を持っていれば、その株式の出資先(投資先)にも関心が向くようになり、支配関係にあれば、子会社の経営も把握していきます(支配関係がなくとも、株価を把握します)。子会社の経営が傾いて資本が欠損していたり、債務超過になったりしていれば、親会社は投資を回収できなくなる可能性が高いといえます。

こうして掘り下げて検討していくと、全体像を見るだけではく、お金の行き着く先がどうなっているのか、その投資が回収できるのかできそうにないのか、洞察力、観察力も強まっていきます。

おわりに

連結決算書、上場企業への株式投資をよくする方にとっても、もしかしたら、馴染みの薄い言葉かもしれません。大きい企業の経理部の方や、公認会計士のほとんどにとっては日常的な用語でも、です。知名度にギャップがあります。

「世帯の家計簿」と表現すれば、少しは分かりやすく説明できるかな、とは思いましたが。いかがでしたでしょうか。

連結決算書は、企業グループの経営の成果を理解するもの。親会社を会社の本社、子会社を会社の部門とみなした一枚の決算書です。

公認会計士は、連結決算書の検討を通して、全体像を掴むのに長けています。さらには、投資の行き着く先がどうなっているか、掘り下げて検討しようとし、洞察力、観察力も深まります。

(本投稿の執筆時間 90分)

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