【Tips】消費税の計算では1万円未満のインボイスは保存しなくて良い(少額特例)が、所得税の計算では・・・?

はじめに

この投稿の前提は、青色申告をしている個人事業主で、前々年(基準期間)の年間の課税売上高が1億円以下または前年の1月から6月まで(特定期間)の課税売上高が5,000万円以下の事業主です。

なお、課税売上高とは消費税の対象となる売上高です。

ざっくり説明するため、法令に規定されている用語ではなく、それよりもかんたんな言葉を使います(例えば「消費税及び地方消費税」という言い方をせず「消費税」というように)。

まずはじめに、消費税と所得税では、計算のしくみが違うことを頭に入れておきましょう。

消費税の計算

消費税の計算は、以下のようになります。

(お客様から代金とともに)預かった消費税(取引先に代金とともに)支払った消費税

この、支払った消費税を差し引く計算のことを「仕入税額控除」といいます。

これは原則的な計算(一般課税)であり、それ以外の計算方法(簡易課税)もありますが、この投稿では説明をいたしません。

所得税の計算

一方、所得税の計算は、大まかには、次の計算になります(所得控除と税額控除もありますが、省略しています)。

所得税額=所得金額×所得税率
所得金額=収入金額(売上高など)ー必要経費(原価及び経費)

収入金額(売上高など)から必要経費を差し引く点が、計算の特徴です。

預かった消費税から支払った消費税を差し引く(仕入税額控除)、という消費税の計算とは異なるものの、差し引くという点において、所得税と消費税を混同してしまわないよう、注意が必要です。

両者の計算のしくみは異なるのです。

消費税の計算では、税込1万円未満のインボイスは保存しなくて良い

仕入税額控除をするためには、インボイスを保存しなければなりません。

しかし、特例として、基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業主は、1取引あたり税込1万円未満のインボイスは保存しなくても良いことになっています。

(基準期間と特定期間については、上記参照。なお、帳簿に、取引年月日、取引先の氏名又は名称、取引内容、取引金額、適用税率の記載は必要となる)

この特例は、小規模な企業の事務の負担を軽くするために設けられたもので、2029(令和11)年9月30日までの期間限定のものです。

将来の税制改正については現時点で分かりませんが、この期間を過ぎると、原則通りすべてのインボイスを保存しなければならなくなります。

所得税の計算では?

一方、所得税の必要経費として認められるための根拠資料(取引書類)として、実際のところはインボイス(=消費税上インボイスに該当する領収書や請求書など)がその資料に当たるでしょう。

この点、必要経費として認められるために「税込1万円未満のインボイスは保存しなくて良い」という規定はないため(所得税法施行規則第63条において取引書類の保存義務が規定されているが、保存しなくても良いとされる金額基準の規定はないため)、

必要経費として認められるためには、税込1万円未満のインボイスであっても保存する必要があると考えられます。

すなわち、消費税の計算上は、保存しなくて良いとされるインボイスであっても、所得税の必要経費として認められるためには、保存しなければならないと考えられます。

もっとも、必要経費として認められるために、根拠資料が必要とされるのは、

  • 必要経費とする取引の存在を客観的に示すため
  • 必要経費とする取引の内容(購入したモノやサービス)を示し、かつその内容が事業の遂行上直接必要とされるものであることを立証するため

です。

だとするならば、(すべてのインボイスを受け取って保存するのが最も望まれるところですが)インボイスではなくとも、例えば、

  • 取引の内容が判明する取引先とのあいだのメールと、その取引の支払いを証明できるもの(銀行の出金データや通帳、電子マネーの利用履歴(スクリーンショット)など、以下同じ)
  • 取引に至るまでの見積書(取引内容が判明する)と、その取引の支払いを証明できるもの
  • 納品書と、その取引の支払いを証明できるもの

のように、取引の存在と内容と支払いが客観的にわかる資料があれば、それがインボイスでなくとも問題ないと考えられます。

まとめ

消費税の仕入税額控除をするためには、インボイスの保存が必要になります。

この点、小規模な企業の場合には、一定の期間は、税込1万円未満のインボイスの保存の必要はありません。

しかし、所得税の必要経費として認められるためには、金額のいかんにかかわらず、その取引の存在と内容と支払いが客観的にわかる資料が必要となってきます。その資料は、インボイスでもインボイスに該当しない資料でも差し支えないと考えられます。

1万円未満であることを理由にインボイスの保存がいらないからといって、消費税ではそれでよくとも、

所得税の必要経費として認められるためには、それでもインボイスを入手するか、あるいはインボイスに該当しない取引資料を用意するか、どちらかする必要があると考えられます。

この投稿は、執筆日(2023年10月4日)現在施行中の法令に準拠しており、本文中の意見に係る記述は当事務所の私見であること、おことわり申し上げます。

税務上の個別・具体的な判断につきましては、税理士等の専門家にご相談をお願い申し上げます。

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