税務署と税理士、こう使い分けては?
そもそも税務署と税理士ってどう違う?
今回の投稿では、個人事業(フリーランス)なり会社(法人)を設立するなりして、起業することを前提にして話をすすめます。相続税、贈与税、譲渡所得税など資産税については前提にしません。また、私見であることを申し添えます。
さて、起業して、ビジネスの展開に気合が入って躍起になる一方で、日々の取引の会計ソフトへの入力とか、何ヶ月かあとに控えている決算や確定申告書はどうしよう、と頭を悩ませることもあるでしょう。
巷には会計の本や確定申告の本は星の数ほど出版されていますし、ネットでもその手の情報は溢れかえっています。
これら本やネットの情報を駆使して、自分で勉強しながら決算や確定申告をすすめられればベストですが、やはり、誰か専門家に聞いてみたくもなると思います。
ピアノの弾き方やランニングの仕方などを本だけでは理解しきれず、ピアノの先生やスポーツクラブのインストラクターに教えてもらうように、会計、決算や税務(税金の計算)についても、教えてもらえる専門家―税務署と税理士―がいます。
ところで、たまに、税務署と税理士を混同、ごちゃまぜにしてしまっている人が見受けられるところですが、税務署と税理士は違います。
税務署は、国への税金を納める(払う)ところであり、国民に課税する行政部門
です。確定申告書の作成によって計算した税金を納める(支払う)先が、税務署です。
そして税務署では、税金を円滑に納めてもらえるよう、各種の広報活動をするとともに、納められた税金が誤っていないか(特に不足(過少申告)がないか)どうか確かめるための税務調査をしています。会社など企業を訪問して帳簿や書類を閲覧する調査も含まれます。
納めた税金の不足が明らかになれば、追加的に課税されますが、課税するというところに税務署の行政機関(国家機関)としての本質があります。
ちなみに、住民税は税務署ではなく都道府県民税は都道府県、市町村民税は市町村に、それぞれ納める(払う)こととなり、広報活動や徴収活動も各自治体でしています。
税理士はサービス業。納税者(企業)のために税法などの法律に基づいてサービスを提供。
税理士は税務署と違って(行政機関ではないので)課税はしませんし、税務調査もしませんし、納税を受け付けることもしません。
税理士は「税理士」という国家資格を有する民間の事業主であり、税務というサービスの、サービス業をする人です。
税務とは具体的には
- 税務相談業務 税金の計算のしかたや、取引が課税の対象になるかどうかについて相談に応じる
- 税務申告書の作成業務 法人税申告書や所得税申告書など各種の税務申告書を作成する
- 税務代理業務 税務申告を企業に代理して行ったり、企業への税務調査に立ち会うなど、企業(=納税者)に代理して税務官公署(税務を担当する国や地方自治体の機関)とコンタクトをとる業務(裁判において原告や被告を代理する弁護士に近い役割)
の3つを柱とする業務です。その他にも、会計や財務に関するアドバイス(アドバイザリー)業務や経営コンサルティング業務をする税理士もいます。
以上、税務署は税金を納める先であり課税を担当する行政機関であること、
税理士は企業のために税務サービスを手がけるサービス業という、
違いを述べてきましたが、この違いから、税務署と税理士の相談の応じ方、すなわちどのように教えてくれるかが違ってきます。
税務署には無料で相談できるが、親身になって十分に教えてもらえるとは限らない。
税務署に電話をかけ、番号のアナウンスに従って番号を押すと「電話相談センター」につながります。電話相談センターへの電話料金はかかりますが、相談料は無料です。
また、税務署に直接行って相談に応じてもらえもしますが、その場合は、面談の予約が必要になってきます。こちらも無料です。
無料で相談に応じてもらえることが税務署の最大のメリットで、起業したてでまだまだ売上も利益も十分に出ない段階では非常に利用価値があります。電話ではさらにこちら(相談者)の名前を言う必要も無く、匿名性が保たれます。
一方で、無料だからこそでもあり、税務署の「課税機関」としての特徴からの、デメリットでもあるのですが、一般的なことしか教えません。
個別具体的な事実や事情に基づいて判断して教えてくれることはほぼ無い上、どの制度を使えば節税になるかといった選択肢を税務署のほうから提示することはありません。納税額の計算の責任についてはあくまでも納税者側がとるというスタンスで相談に応じます。
結局これは、税務署という行政機関にとっては、納税者に納税してもらえるように促すという役割がもっとも重要で、その役割が果たされたならば、他はさして重要性がないからと考えられます。
税理士は基本、有料だが、様々な選択肢を提示しながら、十分に教えてもらえる。
税法に則って仕事をするというのは、税務署も税理士も一緒ですが、税理士はサービス業であることから、基本的には有料です。
企業の税務上の各種の問題=不明な点の解消、税務申告書の作成、税務調査の(専門的見地からの)立会とアドバイスといった各種の問題を解決するサービス業です。
これらのサービスを提供するためには、企業や企業の取引の詳細な理解が欠かせないので、個別具体的な事実を確認した上で判断まで行い、とるべき複数の方法があればすべて提示します。親身になっって相談に応じるのです。
また、個別具体的にマンツーマンで教える以上、お互いの信頼関係が重要になってきます。匿名というわけにはいきません。
さらには、各種の税務サービスを請け負う以上(税務署の無料相談は行政サービスではあるが、請け負ってサービスをしてくれるわけではない)、請け負った仕事の内容には責任が発生するので、一般論ではなく必然的に個別具体的な解決策を提示することとなります。
個別具体的になってくることもあるうえ、さらには企業の経営にとっても納税は重要な部分となるので、十分に説明することになります。
もっとも、すべて税理士に丸投げして経営者としては何も理解しないというのは、経営者としていかがなものかと思いますので、税理士というインストラクターが親身になって教えることは、努力してマスターして頂きたいものです。
まとめ~どう使い分けるか
結局のところ、起業したてで、売上も利益も十分ではないころは、無料であり、経営における節税の重要性も高いとはいえないことから、税務署に相談するのがベストではないでしょうか。
さらにいえば、あるていど売上も利益も出るようになったが、消費税の納税が不要(2年前の課税売上高1,000万円以下)な段階の個人事業主は、手取り足取り教えてもらいたいならば有料で税理士に教えてもらって、そこまではいらないというなら税務署で無料で教えてもらえばいいのではないかと。
消費税の納税が必要になった個人事業主と、法人成りを検討しはじめた個人事業主、そして法人(所得税の確定申告書よりも法人税の確定申告書の方が作成に時間と労力がかかる)については、税務署の相談では限界を感じることが多いと思われます。税理士に依頼して、深く突っ込んで教えてもらうほうがベターなように思います。
(本投稿の執筆時間 80分)