引当金のはなし〜負担を明らかにして金融機関へのプレゼンに役立てる!

はじめに〜引当金って

3月決算を前に、会社によっては「引当金」の金額をどう決めるか、検討をしているところもあるかと思います。すでに月次決算の中に月割額で取り込んでいる会社もあると思いますが、中小企業の中には「引当金」と言われても、ピンと来ない会社もあるかもしれません。

引当金とは、法的な支払いの義務が確定していない負債(負担)で、以下の4つの要件を充足した場合に、貸借対照表の負債の部に計上しなければならないものです。

4つの要件とは

  1. 将来(翌期以降)の特定の費用または損失であり
  2. その発生の原因が当期以前にあり
  3. 発生の可能性が高く
  4. 金額を合理的に見積もることができる

です。

賞与を例にとってひとつづつ見てみましょう。3月決算で、賞与の支給月と計算対象期間の関係が、6月支給→計算対象期間12月〜5月、12月支給→計算対象期間6月〜11月であると、賞与支給規程に定められているとします。

一般的に、賞与(ボーナス)というのは、会社の業績が良ければ支給され、良くなければ支給されないものですが、賞与の支給理由(原因)は、従業員の(計算対象期間内の)勤務です。

3月決算では、6月支給分のうち、計算対象期間が12月から3月までの分が当期のうちに負担すべき額となります。要件に当てはめれば、

  1. 翌期である6月の費用(賞与支給)であり
  2. その原因が当期である12月〜3月の勤務にあり
  3. (業績見込が、当期以前と同程度かそれ以上であれば)支給される(発生する)可能性が高いといえ
  4. 金額は賞与支給規程に基づいて合理的に見積もることができる

となります。

貸借対照表の負債の部に表示することで、将来の負担が明らかに

計算された引当金は、貸借対照表の負債の部(貸方)に計上され、対応する借方には、費用として引当金繰入額が計上されます(前期末から引き継いだ引当金残高があればこれを取り崩して収益とし、当期末で計算された引当金額を全額費用とする。または、前期末から引き継いだ引当金残高と当期末で計算された引当金額との差額を費用に計上する)。

引当金額の分、負債の部の金額が増え、費用計上を通して純資産の部の繰越利益金額が減少します。あたかも、利益金額のうちの一部を、将来の負担に備えて(負債として)キープしたような感じになります。

このように、将来の負担を引当金として明示することにより、会社の財政状態がより明らかになり、融資を受けている金融機関に会社の現状をプレゼンテーションする際に役立ちます。マイナス材料も含めて、会社の現状を金融機関にはっきりとプレゼンテーションすることは信頼関係を強める点からも重要と考えます。

なお、中小企業向け会計基準である「中小企業の会計に関する基本要領」(「要領」と呼ばれます)と「中小企業の会計に関する指針」(「指針」と呼ばれます)でも、引当金の計上を義務付けています。

「指針」は会計参与を置くようなやや大きめの中小企業向け、「要領」はそれ以外の全ての中小企業向けといえますが、「指針」「要領」に基づいて決算書を作成することにより、決算書の品質が一定水準以上となり信用が高まるといえます。

法人税の計算で認められる引当金は2つだけ

引当金には、賞与引当金のほかに、退職給付引当金、役員退職慰労引当金、修繕引当金、返品調整引当金、工事損失引当金、投資損失引当金、貸倒引当金など様々な引当金がありますが、法人税の計算上認められている引当金は、返品調整引当金と貸倒引当金(一部の会社のみ)です。

この2つについても、税法上規定された計算方法に従うので、会計で計上した額と差額があれば、否認されます(別表四加算)。

しかし、法人税の計算(税務申告書)の規定は、課税の公平のため、決算書は企業の経営状態を明らかに表示するためと、目的が異なります。

引当金は、法律上確定した債務(負債)ではないので、会計上(決算書上)は重要であっても、法律的に確定していることを求める税法(法律)の世界にはなじまず、税務上否認することとなります(会計上費用となるが税務上損金にはならない)。

おわりに

引当金は、法的に確定した債務(負債)ではないけれども、上記の4つの条件を充たせば決算書上計上しなければならないもの。計上すれば、負債が増えることとなるが、企業の経営状況を明確に表現するという点でプラスである、というお話をさせて頂きました。

融資を受けている会社は、決算書を金融機関に見てもらうことがあるので、「指針」や「要領」に従って決算書を作るのは重要ですが、融資の有無に関わらず、自社の経営をシビアに把握するという意味で、「指針」や「要領」に従って決算書をつくってみてはいかがでしょうか。

(本投稿の執筆時間 95分)

 

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