経理は企業の「本業」ではないのか?

よく聞く言葉だけれども

「クライアントが本業に専念できるよう、経理はアウトソーシングしよう」

「顧問先(経営者)が本業に専念できるよう、記帳は会計事務所や記帳代行業者に、丸投げしよう」

これらは、会計業界ではとてもよく目にしたり耳にしたりする上、こうしたメッセージの声がしばしば大きく、

「クライアント(顧問先・経営者も含める)が本業に専念する」ことは当然視され、それゆえに「経理ないし記帳を会計事務所などの外部にアウトソーシング(丸投げ)」することも、絶対的なくらい当然のことであり、是非とも推進すべきこととして、響いてきます。

「クライアントが本業に専念する」という言葉の威力が強く、金科玉条として、これを実現するためにあらゆることを正当化すべき、というようにも感じてしまいますが、

「クライアントが本業に専念するために、経理や記帳を外部にアウトソーシングしたり丸投げしたりする」ということに、私はやはり違和感を覚えてしまいます。何故か。

そもそも「本業」とは何か?

「クライアントが本業に専念する」の「本業」とは何でしょうか?

この世界には多様性に富んだおびただしい数の人や企業が存在する上、世界は広いですから、「本業」が何かという問いについて、唯一絶対の正解はありません。

人によっては「本業」とは、「営業」「販売」「研究開発」「製造」ととらえて、これらに含まれない「経理」については「本業ではない」とみなして、専念するものの対象外とするでしょう。

また、「本業」とは「将来ビジョンを描き、実現するためのシナリオを作って、それを実現するためのアクションを起こす」ととらえる向きもあります。確かに経営者の本業といえます。

さらに、「本業」とは「アイディアを出すこと、それを具体化するための行動をすること」「まだ世の中に存在しないモノやサービスを創造していくこと」という向きもあります。これもまた経営者の本業です。こうした活動があるからこそ、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)のようなテクノロジー企業が、企業としてすさまじい繁栄を遂げ、人々の習慣や世の中の仕組みを変えてきました。

ここまでに述べてきた「本業」は、いずれも正しいことを言っており、間違っているとはいえないのですが、しかしそれでも違和感が残ります。

私は「本業」とは「経営」を意味するととらえています。

なお、経営とは、これまでに述べた「営業」「販売」「研究開発」「製造」「ビジョンとシナリオの作成と実現(経営企画)」「創造」を、実現するためのベースである「経営資源の配分」すなわち「ヒト、モノ、カネ、時間、情報の配分」を意味します。

「本業」を「経営」に置き換える

ここで、冒頭の文章の「本業」を「経営」に置き換えます。

クライアントが経営に専念できるよう、経理はアウトソーシングしよう」

顧問先(経営者)が経営に専念できるよう、記帳は会計事務所や記帳代行業者に、丸投げしよう」

このように、ある言葉(本業)の意味する内容を違う言葉(経営)に交換してみると、思考や感覚を鮮明にしたり、深めたりすることができます。

そして、言葉を置き換えてみると、経営に専念するために経理や記帳をアウトソーシングしたり丸投げしたりすることには、違和感があります。

経理や記帳をアウトソーシングしたり丸投げしたりすると、後世の歴史書に残るほどの大天才でもない限り、自ら作業しながら体感的に自社の経理や記帳を理解する機会を失う可能性は高いです。

自社の経理や記帳が理解できなければ、その結果出てくる経営の数字-売上高、利益、資産、負債、純資産、収支内容―の意味が十分に理解できず、その結果、「経営判断を誤る可能性が高まり」「経営に専念」できるとは言えなくなるからです。

経営の数字について「その意味」や「なぜその数字になるのか」を理解するのは、適切な経営判断にあたっては必要なことですが、

「数字の意味」「なぜその数字になるのか」の理解には、自社のビジネスや業界、景気動向、経済状況の理解のほか、自社の経理や記帳の理解も必要です。

自ら経理や記帳をしないならば、自社の経理や記帳を理解する機会を失い、ひいては、自社の数字を理解する機会を失うことを意味します。

もうお気づきの方もいらっしゃると思いますが、

「経理や記帳は、経営の一部」

「経理や記帳は、経営の重要な道具」

なのです。

会計事務所の役割は、経理や記帳を経営の道具として「どう使うか」を教えること、そしてより良い使い方を提案していくところにあります。

「クライアントが経営に専念できるよう経営の重要な一部である経理をアウトソーシングしよう」

「顧問先(経営者)が経営に専念できるよう経営の重要な道具である記帳は会計事務所や記帳代行業者に、丸投げしよう」

これを読むと、違和感は一層鮮明になりますが、いかがでしょうか。

経営に専念するために、専念の対象である経営の重要な一部を他に任せるというのは、自己矛盾をはらんでいると思うのは、私だけではないはずです。

少なくとも当事務所のスタンスとしては、経理や記帳は経営の重要な一部としてクライアント(顧問先、企業)自ら、最終的な責任をもって、自社で取り組んでいただき、

会計事務所は、経理や記帳を経営の重要な道具として、どう使うか、どうやっていくか、やり方を教えるところにその役割があるものととらえます。

また、経理や記帳というのは、同じような単純作業の繰り返し(ルーティンワーク)も多々あり、扱う文書も多く、会計ソフトへのもれなく重複なく正確な入力など手間もあり、確かに面倒なものです。面倒なものですが、経営の数字を出すために必要不可欠・重要なものです。

そこで、この面倒をいかに軽減し、経理や記帳の業務を効率的に遂行するか、生産性を高めるか、クライアントに提案していくことも会計事務所の役割であるととらえています。

まとめ

本業、すなわち経営に専念するために、経営の重要な一部・重要な道具である経理・記帳をアウトソーシングないし丸投げするのは違和感があります。

マンパワーが足りず、どうしてもアウトソーシング・丸投げせざるを得ない場合にまで反対するものでもありませんが、その場合、数字の意味を理解するのは、自社で経理や記帳をするよりも(体感的に理解する機会を失うことにより)難易度が増します。

難易度が増したとしても、経営責任をとるために、数字の意味を理解しなければなりませんし、アウトソーシングしたとしても、経理の最終的な責任は経営者にあります(適正な財務諸表を作成する責任は経営者にあるということです)。

そして、当事務所では経理や記帳の代行を請け負いませんが、

経理や記帳のやり方は、スポーツのインストラクターのごとく、お教えします。

さらに、より効率的で生産性の高い、時短をはかり面倒さを軽減できる、経理や記帳のやり方の研究を続け、しばしばITを駆使するやり方を含めて、提案し続けてまいります。

(本投稿の執筆時間 100分)

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