内装工事代金からそれぞれの減価償却資産の取得価額を算定

はじめに~減価償却資産とは

ここでは、建物を賃借して、内装工事をして事業をすることを前提とします。ビルのテナントとして入居する飲食店、小売店などをイメージするといいでしょう。

また、会計基準と税法とでは厳密には取り扱い方が違いますが、ここでは大まかに理解していただきたいのでその違いは無視して話をすすめ、定義も多少端折ってお話します。

さて、減価償却資産とは、事業に使うもので、次の3つを兼ね備えるものをいいます。

  1. 使用可能期間が1年以上
  2. 一個または一式(一取引単位という言い方もします)の価格が10万円以上
    (消費税の課税事業者は税抜、免税事業者は税込)
  3. 使用または時の経過に応じてその価値を減じていく
    (使うことによって消耗したり、時の経過→技術革新や新製品の登場などによって陳腐化する)

典型的なものとして以下のものがあります。

  • 建物
  • 建物附属設備(電気設備、給排水設備、ガス設備など)
  • 車両運搬具(車やバイクなど)
  • 工具器具備品(外付けのエアコンやコンロ、冷凍冷蔵庫、テーブル、陳列棚など)

減価償却資産は、購入額(支出額)を購入した年度の一時の費用(経費)にしません(中小企業ではよく用いられる例外がありますが、ここでは説明を省略します)。

購入した年度以後使用可能期間(耐用年数)にわたって売上高の獲得に役立つ、貢献するものとして、定額法や定率法などの計算方法(税法で規定)により規則的に使用可能期間耐用年数として税法で規定)にわたって費用(経費)に配分します。

この「規則的に、耐用年数にわたって費用(経費)に配分する」ことを減価償却といいます。

余談ですが、土地については、使うことによって消耗したり陳腐化することは通常考えられない(市況によっては時の経過とともに価値が上がることもある)ので、(決算書上は有形固定資産に属するものの)減価償却資産ではなく、減価償却はしません。

内装工事代金はそのまま全額がひとつの減価償却資産(たとえば「建物」)として扱われるのか?

通常、内装工事代金はひとつの減価償却資産として扱いません。

内装工事の契約書をよく見てみましょう。契約書と一緒に綴じこんでいる工事の明細書(「見積書」とタイトルされていることも多いが、契約金額と同額であれば工事の明細書としてとらえる)をみると、内装工事のなかには、以下のような様々な工事が含まれています

  • 内装そのもの(天井、壁、床)の工事、のほか、
  • 電気設備工事
  • 給排水設備工事
  • 自動ドア工事
  • 陳列棚の据え付け工事、などなど

例えば、内装工事一式の代金が200万円だったとします。この200万円の中身(明細)を全く検討せずに、すべて「建物」とか、すべて「建物附属設備」などとしてしまうと、

内装工事の中身であるそれぞれの減価償却資産(耐用年数が相対的に短い「器具備品」や、一単位あたり10万円未満のため支出年の経費にできる工事が含まれていることもありうる)に工事総額を配分した場合にくらべると、

減価償却により決定される費用(経費)をとおして計算した各事業年度の利益(所得)が、過大になったり過少になったりします。

利益(所得)が過大な場合は節税につながりにくくなり、過少な場合は納めるべき税金が過少になり、修正申告の必要が生じてしまいます。

そこで、内装工事代金の総額を「各工事代金=各減価償却資産の取得価額」に、配分する必要がある

以下、典型的な例をExcelで説明します。

なお、工事は個別性が強いものでもあるので、工事の明細書を読んでも工事内容がよく分からない場合は、工事業者に聞いて内容を明確にしておきます。

また、明細書にもとづく配分の計算は判断して決める要素もあるので、判断に迷った場合には税理士に相談するのも一案です。

(1)工事の明細書どおりにExcelに入力する

上の画像のように、工事の種類ごとに1行を使って、工事の明細書に書かれている税抜金額・消費税・税込金額を転記ないし数式入力によって算定します(合計金額は契約金額=請求金額と一致)。

(2)追加工事は、該当する工事に振り替える

この例では、追加工事は電気工事についてのものなので、E列で追加工事から電気工事に振り替えます。F列で振り替え後の各工事の金額を算定しています。

(3)工事全体に対する「共通費的な支出」を、個別の工事に配分する

この例では、仮設工事と諸経費(合計275,000円)を、工事全体に対する「共通費的な支出」と判断し、他の各工事(内装工事、電気工事、給排水工事、看板工事)に配分します。

「共通費的な支出」を配分する際は、他の各工事の、「共通費的な支出」を除いた工事代金総額に占める比率(計算式は上の画像参照)で配分します。

なお、Excelでは数式を入力して計算しますが、計算式は下の画像のとおりです。「仮設工事と諸経費の配分」の列(G列)における、合計欄(10行目のG10セル)は仮設工事と諸経費の合計額を絶対参照で入力し、G列の仮設工事と諸経費の欄に0を入力しておくのもポイントです。

(4)「共通費的な支出」配分後の金額に基づいて、勘定科目を決める=資産か経費かを決定する

H列で「共通費的な支出」配分後の、各工事の金額を算定しています。H列の合計が工事代金総額=契約金額と一致しているかどうかを確認し、各工事の勘定科目と減価償却資産になるか経費になるかを決定していきます。

内装工事1,275,159円は、建物そのものを構成するので勘定科目を「建物」とし、一式の金額が10万円以上であるため減価償却資産となります(ここでは耐用年数の決定方法には触れません。以下同じ)。

電気工事382,548円と給排水工事255,032円は建物に付属する設備なので勘定科目を「附属設備」とし、一式の金額が10万円以上であるため減価償却資産となります。

看板工事89,261円は一式の金額が10万円未満となったため、その全額を支出年度の経費とできます。勘定科目は「消耗品費」が適当と考えられます。

まとめ

以上、工事契約書に綴込み(添付)されている工事の明細書に基づいて、Excelに入力することによって、内装工事代金の総額を各減価償却資産に配分して取得価額を算定する流れを見てきました。

工事の明細書から、個別の工事を読み取ること(読んだだけではよく分からない場合は工事業者に聞いてみつつ)、

そして読み取ることのできた各工事のなかから、この例でいうところの「仮設工事」「諸経費」のような「共通費的な支出」を判断し、他の各工事に配分することがポイントとなります。

内装工事がどのような内容で構成されていて、内装工事の内容である各工事がどのように事業に役立つのか考えながら、判断に迷う部分や不明な部分は税理士に相談しつつ、ご自身で計算することで資産内容に対する理解が深まります。

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