時代とともに会計事務所のスタイルも変わるもの~税理士法40条1項をとおして考える
目次
税理士も働く場所を自由に選びたいですよね。
2010年代の後半においては、働く場所を自由に選び取っていくフリーランスが台頭しはじめました。会社勤めであっても、テレワークが導入されるようになり、やはり働く場所の自由度がかなり増す傾向が強まっています。
そして突入したばかりの2020年代。今年は5G元年として、新型コロナウイルスの感染拡大防止(新型コロナウイルスの一日も早い収束を祈り、手洗いうがいをはじめ感染予防に努めています)も契機となり、テレワークの導入は一層進むものと考えられます。
毎日の通勤によって拘束される時間はリリースされ自由に活用できるうえ、通勤ラッシュによって受けるストレスも軽減され仕事の生産性がアップします。
働く場所を自由に選択できることもまた、働き方改革です。
働く場所を選択できることにより、
- 「好き」な場所を選べることでの、モチベーションアップ(「好き」を重視した働き方)
- 場所を変えることによるリフレッシュなどの「転地効果」
- そして、ところ変わればひと変わるということで「偶然なる新たな出会い」
もあり、創造性の発揮、潜在能力の顕在化、そして会社や地域とはまた異なる方向性における人生のさらなる展開を図ることができるというものです。
そういう状況を税理士として眺めていると、自分もまた今いる事務所という場所に拘束されることなく、働く場所を自由に選びたい。
たとえば、ある時は小笠原や沖縄の青い海を眺めて、島時間に身をゆだねながら。
(小笠原では”ワーケーション(Workation)”として、休暇も仕事もともに旅の目的とすることを推進しています→ 都内で見つけた! これぞ、ワーケーション天国)
またある時は鎌倉や京都のように歴史と文化とコーヒーカルチャーの深い造詣に触れながら、
またある時は渋谷や大阪ミナミのような最先端のカルチャーに触れながら仕事をしたいと思ってしまいます。
税理士もモバイルボヘミアンなフリーランスのような働き方ができないか?
そこで、税理士について、税理士法40条の規定が問題となります。
税理士法40条
税理士法の抜粋です。
(事務所の設置)
第四十条 税理士(中略)は、税理士業務を行うための事務所を設けなければならない。(第2項は省略)
3 税理士は、税理士事務所を二以上設けてはならない。
(以下略)
e-gov法令検索
そして、事務所の定義については、国税庁の税理士法基本通達(法令解釈通達)で以下のように記載されています。
40-1 法第40条に規定する「事務所」とは、継続的に税理士業務を執行する場所をいい、継続的に税理士業務を執行する場所であるかどうかは、外部に対する表示の有無、設備の状況、使用人の有無等の客観的事実によって判定するものとする。
国税庁HP https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/zeirishi/02.htm
以上からすると、
- 客観的に誰が見てもわかるかたちで、事務所という場所を確保しなければならず、
- さらに、事務所は1か所しか設けられない
ことが読み取れます。
なお、公認会計士法を検索し、同様の規定がないかどうか確認したところ、ありませんでした。公認会計士法では明文で事務所の設置を義務付けてはいないということです(実際には事務所ないし執務できる場所がないと仕事をすすめるのがかなり難しいので、わざわざ法定する必要が無いのかもしれません)。
「事務所」は「本店」として、出張は自由にしてもよいと解釈
上述した税理士法の「事務所設置規定」を厳格に解釈してしまうと、1か所のみ設けた税理士事務所以外では税理士業務(税務相談業務、税務書類作成業務、税務代理業務)ができないという、非常に窮屈なことになってしまいます。
現実的には、税理士は事務所外であるクライアント先(企業の本社や営業所など)において、税理士業務(特に税務相談業務や、税務調査の立会のような税務代理業務)を行うことが多いですし、
役所でよく開催される「無料税務相談会」も事務所外での税理士業務です。
上述した税理士法の「事務所設置規定」の文言上も(言葉尻をとらえても)、事務所以外で税理士業務を実施することを禁止してはいないと読めます。
通達に定める「事務所」の定義=「継続的に税理士業務を執行する場所」を端的にいえば、税理士にとっての「本店」という解釈をするのが妥当だと考えられます( 個人事業主である税理士は「本店」しか構えられない、ということになる)。
「本店」は構えるも、税理士業務とこれに付随する業務をするための「出張」を自由にしてもよい、という趣旨での解釈が、今後においてはよりあるべき解釈だと私は考えます。
そして「本店(=事務所)」も、ノートPCを広げられるだけの机(デュアルディスプレイが設置できる広さの机ならなお良い)と、椅子と、これらが設置できるだけのスペースがあれば(もちろんネット接続環境であることは重要です)、今後一層認められるべきでしょう(例えば、自宅の二坪分くらいのスペースとか、コワーキングスペースの個室のようなものをイメージ)。
電子申告の普及と書籍の電子化などITのフル活用で、書庫の必要性は下がっています。応接スペースに関しては、クライアント先に訪問したり、貸会議室や貸しスペースを利用するなどスペースのシェアリングサービスを利用できます。
つまり、ひと昔ほど前に比べると、事務所として確保すべき必要なスペースは狭くてもよくなった、といえます。
一方で、税理士業務については守秘義務が非常に重要になってきますから、機密情報を漏洩しないよう、「本店」はもちろん、「出張先」であっても、個室を確保することが重要です。
カフェなど公の場でPCを広げて仕事をする場合には、機密情報を扱わない仕事に限定されることを十分留意しなければなりません(カフェで税務申告書の作成や代理送信はダメですが、ブログや機密情報の掲載されないセミナー資料をつくるのはありです)。
おわりに~税理士法の規定は、テクノロジーの進歩と時代にあわせて解釈されるべき
テクノロジーの進歩、シェアリングサービスの普及、コワーキングスペースや街中のカフェの増加、そしてワーケーションの展開。
税理士法40条の制定時期を調べてはいませんが、おそらく、上述した現代(2020年)の経済・技術環境を全く想定していない、昭和の「紙資料」「固定電話」が全盛だった時代に制定されたものと考えられます。
テクノロジーが進歩し時代が変われば「事務所」のスタイルが変わるのは当然です。税理士法の解釈もテクノロジーの進歩と時代に合わせて変えていく必要があるのは言うまでもありません。
そして、税理士の信用の礎といえる「守秘義務」、機密情報をしっかり守るアクション~税理士業務を個室で行うこと、IDとパスワードだけではなく、2段階認証、指紋認証、顔認証を入れるなどセキュリティの強化~を確実にすることが重要です。
そのうえで、「本店」を飛び出して自由に、いつもとは違う街、大自然に飛び出して新しい刺激~インプット~を受けて、仕事と人生を創造的に楽しみたいところです。
(本稿における意見及び法の解釈に係る部分は、私見です)